今日感じたコトを気ままに

日々感じた事を、気まぐれに書いていきます。

久しぶりに作品を・・・

手紙 〜拝啓 あなたへ〜

拝啓

 桜花匂う候 こちらはそんな時候の挨拶に相応しい季節を迎えています そちらはいかがですか
 これまであなたに改まって手紙を書いたことはありませんでしたが 節目をひとつ迎えたことを機に筆を取りました

 さて今年はあなたの七回忌です
 亡くなった六年前のあの日は あちこちから桜の便りが聞こえ始めた頃でした

 私達にもそんな春が間もなくやって来ると当たり前のように思っていましたね
 近くの公園や河川沿いの連なる桜を見ながら「綺麗だね」って互いに顔を見合わせ いつものように手を繋ぎ歩く日を きっとあなたも心待ちにしていたことでしょう
 
 そんなささやかな日常を突然奪われるとは想像もしていませんでした

 私はその時からあなたを想う日に見る桜は ひとりで そう決めています

 見る度にあなたへの想い 切なさや哀しみ 様々な感情が入り混じります
 そんな私の気持ちを知る由もなく 毎春変わらず桜は美しく咲き誇り鮮やかに散ってゆきます
 - 苦しいから見ない方が
 そうどんなに逡巡しようとも やはり見ずにはいられないのです 美しいのです
 
 あなたの人生は 満開を迎えた瞬間 春の嵐に突然散った桜のようでした
 
 桜が蕾から少しずつ花開き 満開を迎えたその姿は美しく圧倒的です
 しかし散りゆく姿もまた 例えようもなく鮮やかで美しいのです
 どんな散り方だとしても 圧倒的な姿から消えゆく情景が儚く 切ないが故に美しいのでしょう
 人の一生にも似たそんな情景が 誰もが求めて止まない桜の魅力なのかもしれないと あなたの死によって思い知らされました
 
 「あなたの人生は美しかった 鮮やかに散っていったんだよね」
 桜を見上げ 今年もそうあなたに伝えます
 
 私はどうでしょうか
 あなたが居なくなったその日から一瞬で散ってしまいたい そう考えたことも一度や二度ではありませんでした
 でも今は 苦しい時間を家族や友人 新しい出来事や人との出逢いに支えられ 多少の困難はありながらも自分なりの生きる道を定め あなたと共に生きた日々を糧に大切に過ごしています

 それは とてもとてもゆっくりとした歩みです
 あなたのように鮮やかではなく 余韻を残しながら散ってゆく気がしています
 私の歩むその道のりは あなたの眼にどんな風に映っているでしょうか
 いつの日か私が人生を終えた時 もし再び巡り逢えたなら感想を聞かせて下さい

 「美しかったよ 余韻を楽しんでたね」
 そう言って あの満面の笑みで抱きしめてくれたなら最高です

 長文になりました
 次の手紙は六年後になるかもしれません のんびりとお待ち下さい
 それでは またね

敬具

《桜の季節の終わりに寄せて》

〜令和四年四月発行 Faith12号掲載〜

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